【連載】ただの渋谷で飲んでるご機嫌な人かと思いきやなんかめちゃくちゃ面白くて実はすごいんですけど誰ですかあなた?
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馬場 希
vol.3 石川武志さん(一般社団法人 渋谷あそびば制作委員会 理事 / 超内会長・404 Not Found プロデューサー)
渋谷の空き地のあそびばで、すごいワンダーな人に出会った!
人から思い切り背中を押されたり、自分がやってみたいと思っていることを「やったれやったれ!」と声高に応援されたい時ってありませんか?
駆け出しで、まだまだライターという仕事を模索中のわたし。何か一つ突き抜けていくには、どんなチャレンジをしてチャンスを掴んでいったらいいのか。いろいろ悩みも多いなか、近年まれに見る勢いで、しかも短時間で、どん!と背中を押された存在が、「渋谷の空き地のあそびば」と呼ばれる 404 Not Foundのプロデューサー、石川武志さん。 ご自身が卒業した大阪の専門学校の教員として約20年、今はゲーム制作会社に8年、そのかたわらで多くのプロジェクトに関わってきた石川さんに、自分の行動が新たな風景を生み出す力を持つことを教えてもらいました。
わたし、今日初めてここに来ました。美味しそうなお店、本屋もある、窓からの眺めもいい、気持ち昂るコト・モノが次から次へと出てくる場所で、キョロキョロ目を奪われて止まりませんでした。
404 Not Foundっていったい何のための場所で、石川さんは何をやってる方なんでしょうか。
「ここをつくることが目的でやってたわけではなくて。少し昔話になりますが、もともと僕は自分が卒業した(デザインの)専門学校で、4年間アシスタントをやっていたんです」
そうなんですね。
「専門学校って、4年実務経験をしたら先生になれるんですけど、僕はそれがもう全然意味がわからなかった。だって、学校でアシスタントしていた人が、なんで先生になれるんですか?って。正しい答えが見出せなかった。まだ血気盛んな若者だったんで、辞めました」
それで?
「まずはフリーランスになってみようと思って、なったんです。1年間。はい、わかりやすく仕事がなかったです」
仕事がない?
「学校を卒業したら、こう、野に放たれる感じっていうか。仕事に就かない子たちってこういう気持ちなんやろな。誰もヒントくれへんし。どうやったら仕事になるんかなと思って考えました。で、この社会をつくっているのは人間だから、人にたくさん会えば何か仕事につながるだろうって、地元のギャラリーの手伝いをしたり、個展を開いてみたり、とにかく動きました。そしたら、1年後に専門学校から再就職の話がきたんです」
立場が変われば考え方も変わる、人から相談されることが仕事への一歩手前
おお、なんと!
「今なら学校っていう環境で、この1年の間にやってきたことが、もっとたくさんできる場なんじゃないかって。自分のためにも学校へ戻ろうと思ったんです」
自分のためにも。
「そう、プラス自分には何もなかったように、何もないと思っている学生たちの、何か手助けになる場づくりみたいなことが必要だと思って。学校の中でも外でも、とにかく色々なことをしました。そしたら、少しずつ相談がくるようになって。そこから18年、先生をやりながらアートイベントをやったりしました」
そうなんですね。
「あぁ……『この人に相談したら何とかなる』って思ってもらえることが必要で、それが仕事の一歩手前なんだって。良い環境ができると、そこに参加する人がいっぱい出てくるから、それを生み出す場を作れたらいいなとやってました」
それからは?
「8年前にいろいろなきっかけがあって学校を退職し、これまでと違う環境で自分を試したいという思いから、今の『Skeleton Crew Studio』というゲーム制作会社に入りました。もともと飲み友達でもあった社長の村上さんと思想がけっこう似ていて、意気投合したんです」
行動して何かを生み出す循環と場づくり
ゲームをつくる会社に!
「ゲームを作るにしてもデザインするにしても、アートをするにしても、そこには全て人が介在している。人が何かをすることによって生まれるものがある。その生み出されたものを、また人が楽しむわけだから、行動して何かを生み出す循環は大事だなって感じました。ゲームのイベントも手伝うし、アートのイベントもするし、そうしているうちにたくさんのクリエイターのネットワークができてくる。彼らがもっと活躍できるようにしたいなって思いました。自分たちのイベントが成功するのは、クリエイターたちがいるから。彼らはそこから巣立っていくようなステップを踏んでいくから、やっぱりそういう場づくりがすごくキーになると思ったんです」
そこからの404 Not Foundなんですね。
「自分のやれる範囲の中でアーティストを応援したり、クリエイターや色んなジャンルの人と一緒に仕事をしている。この404 Not Foundも最初は、渋谷の空き地に『ゲーム』で何かできないかって話だった。
もうちょっとクリエイターというか、どこにも属さないで独立して活動する『インディーズ』と呼ばれる人たちが集まる場所になっていったらいいなって。村上と『こんなことできたらいいよね』っていう、やりたいことリストみたいなのを企画書にして提出したら、やりましょう!ってなりました」
そして、このワンダーな空間ができあがったわけですね!
10年前も、今も昔もやっていることは同じ
「考えてやるというよりは、やりながら考える。やっている中で考えて、考えたことをやる。その繰り返し。局所で想定できないことが山盛り起こって、エラーアンドエラーしか起きない。だけどそこを行き来しないと、本当に相手が面白いと感じるものをつくれないと思うんです。やりたいこと、やってみたいことを全部やってみて、エラーしか起きなくても、ロングスパンで熟成されてきてるから、それがベースになって色んなことの経験値が増えて分厚くなっている。今も10年前もやっていることは同じなんです」
同じなんですね。
「先生をしていた頃、「先生、これ、こうやってみたいと思うんです」って、学生たちから悩み相談を受けるんです。やりたいって言うから、『全部やったらいいやん!』『やったれ!やったれ!やってみたいんやろ?』ってそれしか言ってなかったし、応援しながら送り出すことしかしてなかった」
(笑)すごい
「でも、大体うまくいかずに帰ってくる。『うまくいかなかった理由を考えて、もう一度同じことをしたら、少しはうまくいくんじゃない?』って。先生って、技術と知識を教えることが仕事じゃない。ちょっと先にいて、安心できる場所をつくって、チャレンジすることを後押しする仕事だと思う。何かを教えないといけないっていうミッションが立ちすぎて、そっちの作業が疎かになっている場合が多いなって。『先生』っていう肩書きがちょっとおかしくさせちゃう気がするんです。もう少しこう、一緒に歩く『伴走者』くらいの感じでいられたらいいのに。
お話聴いてて、わたしの方が目がキラキラしちゃったっていうか、感動してます。「こういうことをやりたいんですけど…」って相談して、「やったらいいじゃん!」って、なんて真っ直ぐで最強なんでしょう。背中を押される言葉ですよね。
自己ベストを更新する生き方だったら、いつまでも成長できる
「自分に優れた能力がなくても、自分なりのやり方で自己ベスト更新型の取り組みをし続ければ、これまで良かったことが、より良くなって、よく良くなったことが、次はさらに良くなる。何か新しい仕事でチャレンジができるように、いつの間にかなる。
例えば、雑誌を作りましょうという話になったら『100ページか!』って、まず腰が引ける。そこから『雑誌を作るとは』みたいな企画書を書いて、やることの多さに時間がないって途方に暮れる。いやいや、誰も100ページだなんて言ってない。一日一枚A4の紙に文章を何かしら書いて、それが100日貯まれば100ページの物ができるやん!そんな話なんですよ。」
好きなように、やりたいことをやってみればいいと背中を押してくれる石川さんではあるけれど、その対局のことも考えてるんですね。
やりたいことがない、好きなことが思い浮かばないということがあったとしても、それでもいいんだと認めることができるかどうか。たぶん、みんな、自分の存在証明みたいなものが必要だと勝手に思ってて、そういうものがないと自分は存在している意味がないって感じている。フリーランスで1年活動した時、実は好きなことがよくわからない時期があったんです。
人に憑依してみる=自分のやりたいことへつながる
自分の好きなことがわからなかった時、自分が「面白いな、この人!」と思う人のところへ行って、その人の手伝いをする。人に憑依するみたいなことを考えたんです。
自分がその人を面白いって感じたということは、きっと何らか自分のアンテナが反応することをやっているんだろう。自分が魅力を感じる人に近づいて、その人の活動をめちゃくちゃ手伝う。そうするといろんな情報が入ってきて、とにかく学びになる。僕は勉強して、何か調べて行動するタイプではないから。とにかくやってみる。全部やる。手伝う。人のやりたいことを実現させるのも、実はれっきとした自分のやりたいことになる可能性があって、その中で自分のスキルが勝手に身についてくる。選べるようになる。得意不得意も見えてくるから、これは得意だからできます。これはあまり得意ではなくて、できるけど少し時間がかかります。そういうことも言えるようになる。自分の得意不得意を目一杯考えてやったらいいんです。それでいいんだって思ったんで、人に憑依するやり方。魅力的な人がいたらコンタクト取って、色々話を聞いて、まず、一緒に仕事をする。
わたしにもすごく憧れている人がいるので、めちゃくちゃ腑に落ちています。その人にくっついて、お仕事を手伝わせてください!ってチャレンジをすればいいんだと。頭の中に舞い降りてきてます。
「僕は結構、マイペースなんだと思うんですよ。『なんとかなる』ぐらいにしか思ってないかな」
それは石川さんが色んな経験をされてきたから「なんとかなるかな〜」ってとこにつながってきているのでは?
「いや、ずっと一緒です。そりゃ色々と悩んで、苦しんだということもありますし。でも、最終的にはなんとかなるかなって。なんとかするんだろうな。自分はなんか、もうしゃあないから、そう思ってる感じです」
フットワークの良さと柔軟性のある人柄、行動力、積み重ねてきた経験、そして、人をどんどん巻き込んでいく力。そうした石川さんのうねりのようなエネルギーが、クリエイターたちが集える誰も作ったことがない404 Not Foundという場づくりへとつながった。何とワンダーなことか!いや、でも必然だったのではないでしょうか。
駆け出しで、まだまだライターという仕事を模索中のわたしは、このインタビューをまとめている間、色々なエラーアンドエラーの繰り返しや想定しきれないことが起こりました。
そんな泣きたくなる日々の中で、石川さんが語ってくれた経験や気づきに「えいやーー!」と背中を押され、どうにかこうにかやってます。
驚くことに、石川さんが体験したことと同じようなことが起こって「石川さんが言ってたことじゃないの!」とハッとすることもありました。
自分のこれまでの行動が、あながちズレたものではなかった。過去との答え合わせができたようなインタビューに、ただただワクワクと感謝の気持ちでいっぱいです。
こんなに柔軟で踏み出す勇気を持った大人に、もっと若い時代に出会いたかったなあ……でも、今出会えたから。それだけで儲けものだと思ってます。
渋谷の玉手箱から出てきた、とてもワンダーな出会いでした。
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ライター
馬場 希
人が語る言葉に興味津々な、駆け出しライター。
子ども時代に読んだ本や雑誌の影響から、文章を書くことが好きになる。「言葉にすることをあきらめない」と、ライター活動を手探り中。