

【連載】ただの渋谷で飲んでるご機嫌な人かと思いきやなんかめちゃくちゃ面白くて実はすごいんですけど誰ですかあなた?
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山村光春
vol.1 小川弘純さん(株式会社カロリー代表)
出会いは目から。異性同性関係なくその目にぎゅっと、またたくまに心を持ってかれちゃうってことありませんか僕にはあります(早)。
まさに「あの人」がそうでした。

人類っていうよりも、さしずめ愛玩動物のようでもあり、はたまた肉食獣のようでもある、なんともニュアンスたっぷりな目の持ち主。ねぇ、あなたはいったい誰ですか?
「世の中、いっぱいおいしいものであふれちゃってますよね」
と、つぶやくあなたはもしや、飲食店のプロデュースからブランドの監修まで、食にまつわるいろんなプロジェクトに携わる「カロリー」の小川弘純さんじゃないですか!ってことは、その目はまさかの「おいしい」をつくりだす目、だったんですね。ナットク!

この日は、自ら企画・総合プロデュースをした渋谷サクラステージ4F“サクヨン”に誕生した「SHIBUYA SAKURAGAOKA BEER HALL」の、オープン1週間前。まさに準備でおおわらわ、走り回ってるところをむんずととっつかまえて「お茶でもしません?」と無理くりお誘いしました。
さて、僕はアイスティー、小川さんは水(かい!)を前に、あらためて向き合います。
たしかに世の中、おいしいものだらけですよね。
「でもそれって、いいことだと思うんです。日本ってすごいなって。でも今はもう、その先に入ってきてるというか」

ほうほう、その先とな?
「最近思うのは、コンビニもおいしい、デリバリーもおいしい。いっぱい乱立してる中で、どこでおいしいものを食べるか。あと一番大事にしたいのは、誰と、ですよね」
「どこで」と「誰と」おいしいものを食べるか、かー。ふむー。
「変わるんですよ!超一流のごはんをひとりで食べるより、B級のごはんをみんなで食べるほうがおいしいって時、あるじゃないですか」
たしかに。
「だからね。予約してコースで出すような“おいしい”は、一流レストランに任せればいい。でもそうじゃなくて、自分的に一番の“おいしい”って何だろう?となったとき、みんなで楽しく食卓を囲むような食だったんです」

なるほど〜!好きなみんなでわいわい食べる“おいしい”、ですね。
「でもね。全員同じカレーとかならそれでいいんですけど、最近、みんながわがままになってきたわけです」
あ、たしかに。今はみんな同じじゃなくて「僕はこれがいい」「私はこれ」とかって、それぞれなりますもんね。
「そう。で、それを叶えたのが宅配です。あれ、いいCMですよね。『ウーバーイーツでいいんじゃない?』たしかに〜ってなりますもん(笑)」
そうですねー。「もう街に出なくていいや」「外食しなくてもいいや」ってなりますもんね。
「そうなんです。だからこそ、それでも街に出る理由って何だろう。そのために、僕らがまだできることって何だろうっていうのを、『SHIBUYA SAKURAGAOKA BEER HALL』では徹底的に考えたわけです」
なるほど!場がもたらす「おいしい力」ですね。

「それはやっぱり、この空間の雰囲気。匂い。温度。もちろん味もです。ここで揃えたおいしいは、ただのおいしいじゃない。極めてウマいこと」
極めてウマい、か〜。
「何よりポイントは、ここはひとつのレストランが100品出すのではなく、8店舗それぞれの『俺のはどうだ!』が集まっての100品だから、絶対ウマいに決まってるんですよ。それはね、新しい形態をつくれてるんじゃないかって思います」



要するにめっちゃレベルの高いフードホールってことですね。でもみんなスタメンだと、ややもすると戦っちゃって食い合い、みたいなことになりません?
「それぞれが好き勝手、野放し状態でやってるフードホールだと、そうなっちゃうでしょうね。でも大事なのは真ん中に舵を取る人間がいて、みんなとちゃんと話して『これをひとつのレストランにするんだ』と言ってるから」
そっか。まさにさっき言ってた「ひとつの食卓」ですね!

「そう!だから『あなたは肉を頑張って!私はピザをやるから』とか『値段バラバラだから一緒にしない?』とか『ちょっと揚げものが多くなってきたな。焼きものないですか?』とか『野菜ない!誰かサラダサラダ!』とかやってきたんで、バランスがよくなってくる」
なるほど!でもって、みんなが違うジャンルのものを注文しても、同じひとつの食卓が囲める、ということですね。
「あとウーバーにできないのは、隣の子とちょっとひじが当たって話し始めちゃう、みたいなハプニングですよね」
うわー!
「それは、家のパソコンの前で食べる“おいしい”じゃできない」
そりゃそうだ!
「だから10人以上座れるような席を作れてるし、ふたりでいちゃいちゃできる席もあるし、ひとりで来ても疎外感ないキャッシュオンのフリー席も用意してるので、たとえば『あそこにかわいい子がいるからビールをおごる』みたいなこともできちゃう」
ひ〜!ドキドキする〜!
「もちろん3人、4人とか、それぞれ仲間で来ていても『あっちのグループ盛り上がってるな』『あの人かっこいい』とかあるじゃないですか。なので今回、ひとつの試みとして『渋谷で9時』という企画を考えてるんです」
渋谷で5時、じゃなくて9時ですね!(笑った人は昭和世代のオタク)
「8時55分にジングルが鳴って、9時になるとホール全体で、『せーの、カンパーイ!』ってやるんです」

楽しそう!
「これ、9時っていうのがポイントで。それをめがけて来るなら1次会をどこかで終わらせて2次会でもいいし、遅めのスタートになったら『あのカンパイしたいから行こうか』となる」
たしかに。そこから知らない人と話をするきっかけにもなりそうですね。
「いわば、ぜんぶ“こと”ですよね。あなたの今日の食べるという“こと”を、どこで、誰とするか。ここが、そのいろんなことができる場所になれたらいいなと」
それでいうと、ビールは「こと」を起こす、ひとつの始まりですよね。
「はい。第一投です。プレイボールです(笑)」

ハッハッハッハ!そのために施設内にビール醸造所「SHIBUYA BREWERY」も自分でつくっちゃったそうじゃないですか。どんだけやるんだって感じですよね。
「正直なんでもよかった。でもビールって、すごい使いやすいんですよね。『とりあえず』って言葉があるくらいだし、人と仲良くなりたければ『ビール飲みに行かない?』ってなりますしね」

たしかに。もはやビールは、飲みものじゃなくて体験ですね。
「そう。しかもYoutubeではできない体験。やっぱり生ってすごいですよね。ここで味わえるのは生の人間と、生ビール」
うまい!

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編集者/コピーライター
山村光春
食やライフスタイル、海外などのジャンルにおける編集・執筆・コピーライティングを手がけるBOOKLUCK主宰。手がけた書籍は「眺めのいいカフェ」「カフェの話。」(アスペクト)、「おうちで作れる カフェのお菓子」(世界文化社)、「MY STANDARD 大人の自分定番」(主婦と生活社)など多数。編集教室「やさしい編集室」主宰。京都芸術大学講師。現在、福岡と東京を行ったり来たり。